【Avarice4】




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 『success』の歴史は意外にも古い。

 劇団を興したのは現在の団長の祖父で、彼が戦後、戦争で芝居への夢が絶たれていた若者たちを集め、アマチュアの劇団として出発させたのが始まりなのだそうだ。
 アマチュアではあるが、ボランティア以外での活動では小額ながらも金をとっているので、芝居に対するクオリティには厳しい。普段はアットホームな雰囲気なのだが、芝居に対しては、たとえケンカしてでもそれぞれのこだわりを活かそうとする気概があるのだ。

 そんな『success』の中で、プロになれた俳優が一人だけいる。

 名前を西岡修史という。
 十年ほど前にプロ転向し、現在でもドラマやバラエティ番組、映画などで活躍している。劇団出身者というだけあって芝居には定評があったが、アイドルたちの俳優化が頻発するようになると、彼らの華やかさに圧され、ピーク時ほど目立たなくなってきている。
 彼が在籍していた頃は、『success』の全盛期とも言うべき時代だった。女性役者もきちんと揃っていたし、裏方も充実していた。そして看板役者の西岡を中心に数名の有望な若手俳優たちが育っており、彼らが稼いでくれた金があったため、公演も順調にこなせていた。
 西岡のプロ転向後、まず公演での収益が減った。さらに折からの不況に煽られ、食べていけなくなった役者たちが次々に辞めていった。そして現在のような弱小劇団に成り果てたわけだ。
 この劇団の役者はみんな、西岡のような役者を目指し、一日一日を芝居に捧げている。拓海もその例に漏れず、西岡を殿上人の如く尊敬していた。実は入団時にたまたま『success』に遊びに来ていた西岡に色々と教えてもらったことがあるのだが、些細なことだから西岡は忘れているだろう。

 そしてその西岡が突如『success』を訪れたから、皆が驚いたのだった。



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